こだま15号車
かつて、公共交通は喫煙可能だった。
正確には、「喫煙」がデフォルトだった。
バスだろうが、電車だろうが、飛行機だろうが。
国鉄がJRになってもボックス席に灰皿が有った。
オレが乗り初めの頃の飛行機は分煙だった。分煙といっても仕切り壁が有るワケでなく、禁煙席にも煙は流れた。 古いアメリカ映画の飛行機の中では当たり前に喫煙している。
愛煙家でない家庭にも、お客様用の灰皿が有ったし、社長室にはガラスとか木製の箱がテーブルの上に載っていて、中にはタバコが入っていて、お菓子のように自由に吸うことができた。
森繫久彌の『社長シリーズ』など昭和の映画を観るとよく分かる。
1999年に飛行機が禁煙になったけど、必ずといってもいいぐらい、トイレでタバコを吸う人が居た。
罰則が厳しくなり、アレな人を除き、吸う人は根絶された。
ロマンスカーからも喫煙車輌が消えた。
精神的糞田舎者を除き、「禁煙」がデフォルトになった。
世の公共交通機関は全て禁煙になった。
東北新幹線は、登場以来禁煙車輌も、喫煙ルームも無く、東北新幹線の東京駅ホームの喫煙ブースは、喫煙者がひしめき合う燻製器の様相を呈す。
一方、東海道新幹線は、窓の有る喫煙ルーム(椅子は無い)がトイレの近くなどに有り、吸いたい時にタバコが吸える。
…といった具合で、新幹線もデフォルトは「禁煙」なのだが…
先日、小田原から浜松の間、「こだま」に乗車した。
新幹線の各駅停車なんぞ、本来乗りたくないのだが諸事情でしょうがない。
指定席なんぞ不要と、自由席を選んだのはいいが、車輌の先頭側か後尾側という末端側となる。
直感的に後方を選んだ。
14号車の横を通り過ぎながら中を見ると、指定席ほどではないが、そこそこ混んでいる。
15号車で乗り込むと嘘のように空いている。
14号車の客は阿呆やな。あと一歩足を延せば、席は選び放題やで。
それにしても換気悪いな。少しタバコ臭いぞ。と思いながら二人掛けの窓側に座った。
少し前傾になっているんじゃないか?と思えるぐらいの背を倒し倒す。
この列車は、どこに喫煙ルームが有るんだ? と前の席の背に付いているテーブルの案内図を見ると…
喫煙ルームが見当たらない。
ん?
ん?
ん?
15号車と16号車に禁煙マークが無い。
まさか…
前の席の窓の棚にタバコが置いてある。
そして…
火を着けた。
紫煙がのぼる。
そう。「こだま」以外の新幹線ばかり乗っていたものだから、「こだま」に喫煙できる車両が有るコトなんて知らなかった。
ああ…
夢みたい。
椅子に座ったまま、タバコを吸えるなんて…
早速、自分も灰皿を確認して、タバコに火を着ける。
マボロシか?
いや、現実や。
しかし、落ち着かない。
オレは愛煙家だが、喫煙できる食堂でも喫煙しない。
嫌煙家に申し訳ない。
でも、自分の席で喫煙できる喜びに浸ってもいたい。
もう一本だけ吸って、そこでもう喫煙は止めた。
前の席のオッサンは、次から次にタバコに火を着ける。
そこへ白人の女性が入って来た。
嘘!! みたいな顔をする。
袖で口と鼻を塞いで通り過ぎる。
そりゃそうだ。
オレだって、公共交通で喫煙できるモノが有るなんて驚いた。
ああ、オリンピックまでに、この善意の席まで消えてしまうのか?
いっそのこと、15号車をJTがスポンサーになって、喫煙車として残すぐらいのコトをしてもらえんやろか?
オレは滅多に「こだま」には乗らんけどんね。
しかし、そう考えると、各車両の扉の脇に、いちいち禁煙マークが有るけど、禁煙がデフォルトなんやで、禁煙マーク付ける方がおかしい気もしてくる。
まあ、ごねる喫煙者がおる限り、excuse として、禁煙マーク付けていた方が安全なんやろな。