もがくま物語 ~フリートウィークの3週間~

『シン・型護衛艦』の もがみ(FFM-1)と くまの(FFM-2)は姉妹艦です。
長浦港に停泊する時はもちろん、どこに行くのも一緒です。
連続して建造された同型艦は、別々の港に配属されることが多いのですが、新型のこの2人は横須賀に揃って配属されました。

某ネット記事では「ツルツルボディー」などといやらしく表現されていますが、生まれたばかりなのでツルツルなのは当たり前です。
最初からボーボーだったら産婆さんが倒れてしまいます。
今後成長していく中で、VLSなど艤装が施されていくでしょうが、今はまだ子どもです。

長女の もがみ は、はじめての子(新型)ということで、とても大切にされました。
そのことはロゴマークを見ても分かります。
凝ったデザインで、最上川の流れる山形県長井市の黒獅子祭りの黒獅子が描かれています。

一方、 くまの は次女ですから、親も慣れたものです。
長女ほど写真も残っていません。
そのことはロゴマークを見ても分かります。
カタカナ表記の護衛艦は他にありません。

 もがみ は先に生まれたのですが、運転試験中の事故で予定が狂い、妹の くまの の方が先に進水しました。

妹に先を越されたというコンプレックスから もがみ は、お出かけする時はいつも、妹の前を航行します。

 

10月29日(土)、30日(日)

木更津新港では もがみ が先に停泊し、 くまの は横につないで、乗客は必ず もがみ を通るようにしてしまいました。
ふたりの前にいた あたご (DDG-177)は、このことを良しとしませんでした。
「あきまへん」静かにつぶやくのでした。

もがみくまのの前にはあたご

 

11月3日(文化の日

山下ふ頭で あたご は、隣に もがみ をつなぎました。
それはまるで、木更津新港の くまのもがみ に置き換えたような姿でした。
そして、 もがみ の「も」の字も広報などで一切触れさせず、 もがみ は、いないことになりました。
現地に行った人だけが「あれ? もがみ いるじゃん!?」と気付くだけでした。

 

11月5日(土)

艦隊これくしょん』でいうところの「大和さん」にあたるいずも(DDH-183)が11月3日に停泊していた、華の舞台である大さん橋にいたのは妹の くまの でした。
 あたご は、くまの と海を挟んで もがみ と並ぶように仕込んだのでした。

左の大さん橋くまの 、右の山下ふ頭に もがみ 

 

 もがみあたご に腹を立てますが、 あたごこんごうと同じイージス艦ですから、『艦隊これくしょん』でいうところの「金剛四姉妹」の一人のような存在です。
体格も装備も全く太刀打ちできないことは火を見るより明らかなので、ぐっと我慢しました。

 もがみあたご

 

あたご は、現代においては戦艦のような存在です。

一方、 もがみ はクルーザーで、直訳すれば「巡航する船舶」、ぐるぐる廻る船です。先の大戦でいうところの 夕張 と同じ「巡洋艦」です。ご存知のように夕張市財政破綻してしまいました。

ロシア海軍の支柱、スラヴァ(栄光)級の、何もせず沈んでしまった、役立たずのポンコツ モスクワ も「巡洋艦」です。

 

艦船一般公開は、横浜新港の たいげい(SS-513)と しらぬい(DD-120)のタッグ、そして、大さん橋いずもくまの が人気を二分し、ハンマーヘッドのテラスでは、ワインを飲みながら眺めるお客さんもいて華やかです。

左翼主義者のキーワードがトレンドになるようプログラミングされていることでお馴染みの Twitter のつぶやきでも、この2か所のものがほとんどでした。

かたや、山下ふ頭まで足を伸ばす人なんて、ガンダム見に来たオタクか、日の当たる場所に行きづらいホームレスに近い人たちしかいません。

現に、Twitter のつぶやきもガンダムがらみでの発言ばかりです。

行き着く先には仮設トイレが並ぶだけです。

さらに、奥に泊まっている艦番号4桁の輸送艦 くにさき(LST-4003)が予想外の人気で、甲板上は人だかりです。
レクサスLS500(あたご)の隣に停まったスズキのアルト(もがみ)など誰も目を留めないのです。


3日間の辱めの中、 もがみ は自分を見つめ直しました。
一方、 くまの は、お姉ちゃん以上に認められている、と勘違いしてしまいます。

 

11月6日(日)

晴れの舞台、観閲式です。
旗艦の あさひ(DD-119)に続くのは、あたご です。
そして、次に続いたのが もがみ で、くまの は姉の後ろ第1群のしんがりでした。

 もがみ は、誇らしく晴れやかな気分でその日を過ごしました。
一方、くまの は、晴れの舞台で姉に先行されるなんて!?と、天国から地獄に落とされたような気分になりました。

 

11月11日(金)

11月11日は、「下駄の日」で、「ポッキーの日」で、「チンアナゴの日」で、「きりたんぽの日」で、「第一次世界大戦停戦記念日」といろんな「日」ですが、砕氷艦しらせ出港の日でもありました。

翌日から東京国際クルーズターミナルで艦船一般公開される、もがみくまの の姉妹は、しらせ を見送った後、お台場に向ったのですが、ここで事件が起きます。


 くまの が先行したのです。


最後まで先行した くまの は、大さん橋でもそうであったように、タグボートに押されてのんびり接岸します。

妹の接岸で待たされた挙げ句、妹の後ろに接岸するはめになった もがみタグボートを使わず、がんばって一人で接岸しました。
せめてもの意地でした。

横須賀沖

アクアライン

東京国際クルーズターミナル

 

接岸した もがみ の作業はスムーズに進みますが、呑気にタグボートに頼ってしまった くまの は、子どもっぽいことをしてしまった!と焦り、作業はうまく進みません。

フォークリフトが運ぶパレットを使い、なんとかハシゴを取り付けますが、その頃、 もがみ の方は SeaRAM chan ができあがっていました。

SeaRAM chan

 

11月12日(土)

今までの艦船一般公開受付開始時間の午前8時が身に沁みてしまった人たちが、午前6時前から並び始めてしまいますが、この日の受付開始時間は 午前10時半 です。

「午後4時まで受付るんだからよ~」とノンビリ出かけたオレでさえ午前9時前に到着してしまい、そこで受付開始時間が 午前10時半 だということを思い出して、ゲゲゲとなったのですが、正午過ぎには受付を止めてしまったので、結果的には良かったのですが、ちゃんと整理券が無くなったら乗船できない旨、表記されてたっけ?

…まあ、そのくらい大盛況で、白いクマのぬいぐるみを並べて撮影するオジサンも当然来ていました。
いつもクマなので、くまの に掛けたワケではないと思いますが、オレが見たのは くまの の前甲板でした。
あのオジサンって航空祭で茶色のクマ並べてる人と同じ人なん?
オレは、人形を入れて撮影する人を見つけると目をそらしてしまうので、ちゃんと見たことないんだけど?
一糸まとわぬラブドールを持って来て写真撮影する根性入ったヤツがいたら見させてもらうけど?

 

11月13日(日)

再び事件は起きます。
昼前、くまの が「帰る!」と言い出し、本当に帰ってしまいました。
理由は「雨が降りそうだったから」ということらしいですが、真相は軍事機密で知る由もありません。

既に並んでいる来客を一手に受け入れることになった もがみ は、その日の内に帰ることができなくなり、翌、月曜日という、老人と無職しか見送りに来れない平日に港を発つことになります。


果たして、先に帰ったはずの妹はお家にいるのでしょうか?


つづく

(ことはない)

※ この物語は、ノンフィクションとノンフィクションの間にフィクションが挟まっています。